キタキツネとエゾシカ
キタキツネが井戸におちて、外に出られなくなっていると、エゾシカが通りかかりました。
「井戸の中のキタキツネさん。その水は、うんまいかい」
そう聞かれたキタキツネは、
「こったらうんまい水、そこらにはないべね。降りてきて飲んでいけばいいべさ」
と、さも美味しそうにペロペロと水を飲んでみせました。
エゾシカは喉が渇いていたので、なにも考えずに井戸に飛び降り、たっぷり水を飲んで、さて外にでようとみまわすと、なんと出る方法が見つかりません。
すかさずキタキツネがいいました。
「心配すんでないや、きみが後ろ足でたってふんばるしょ。そして、僕が背中に登って角から飛び移れば出られるしょ。したら、きみが外にでるの手伝えるべさ」
そうしてキタキツネはかんたんに外に出ると、すまして立ち去ろうとしました。
エゾシカは大声でさけびました。
「おれば、だまくらかしたな、ゆるさねぇぞ」
キタキツネは後ろを振り返りながらいいました。
「おまえのおつむによ、その立派な角にふさわしい知恵があったら、外にでるのにゆるくない井戸なんか、はいらないべさ」
エゾシカは井戸の中でつぶやきました。
「なまずるいキタキツネだな。したけど、あいつのしゃべくってることも一理あるわ」